必見必食! ときめきグルメ さぬき市

長尾寺 至福の野菜懐石

  • line
ユネスコの無形文化遺産にも認定された和食。
多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重、健康的な食生活を支える栄養バランス、自然の美しさや季節の移ろいの表現、正月などの年中行事との密接な関わりの4つが「和食」の特徴とされています。 そんな和食の中でもヘルシーな野菜や海藻だけを使った懐石料理をいただけるお寺が、香川県にあります。さぬき市長尾町にある四国霊場第87番札所長尾寺の「菜懐石(なかいせき)」。
毎年春と秋にだけ食べることができ、完全予約制ですが、予約がすぐにいっぱいになってしまうほど評判なのだとか(2020年11月分は満席、12月分の予約受付は11月20日より開始) 。植物性の食材だけを使うので、ベジタリアンやヴィーガンの方にもおすすめです(2020年秋メニューは一部に魚が入ります)。
 
高松市中心部から長尾寺へは、南東に伸びる道を道なりに車で約35分。“長尾街道”と呼ばれる、高松を中心として発展した街道のひとつです。また琴電長尾線でも行くことができ、長尾駅で下車して徒歩約3分で到着です。
長尾寺に着いたら、山門から入って正面にあるのが本堂と大師堂。左側にある建物が食事の会場となる本坊膳所(ほんぼうぜんしょ)です。車は手前の駐車場に停めましょう。
「菜懐石」は要事前予約。普段参拝客が入れるのは入口付近の納経所だけですが、食事をいただく際には本坊膳所の内部に入ることができます。
中に入ると畳敷きの空間が広がっています。大きな窓ガラスからは陽射しが差し込み、庭の緑を眺めることができ気持ちいいです。グループごとにテーブルについたら、さっそく「菜懐石」のスタートです。
とその前に、テーブルの上に注目。扇形のプラスチックプレートのようなものが置いてありました。
これは長尾寺本坊膳所のオリジナル“マウスガード” 。食事の合間に会話をする際に、口もとにあてて飛沫を防ぐものです。
本坊膳所の木村典子さんによれば、食事の合間にも会話を楽しんでほしいとの心遣いから、「菜懐石」20周年を記念して作られたものなのだそうです。
 
先付けは“鯛のジュレがけ”。
本来「菜懐石」は野菜のみの懐石料理ですが、今秋は20周年を祝して特別にもみじ鯛が使われています。
 
ほんのり寿司酢の効いた寿司飯の上にもみじ鯛とジュレが乗った一品。
寿司飯は黒米の色合いと固めの食感がアクセントになっています。しっかりと旨みのあるもみじ鯛に、梅干をみりん、酒、出汁で煮出したというジュレがよく合います。
 
ちなみに「菜懐石」では、干し椎茸や昆布からすべての出汁をとっています。いずれも植物性の食品なので、ベジタリアンやヴィーガンの方でも安心していただけるそう。

 
続いては八寸。
 
野菜をふんだんに使った色鮮やかな一皿です。一つひとつのお料理は、ほうれん草をおぼろ昆布で巻いたり舞茸を素揚げしたりと至ってシンプル。塩味が付いていないのに、素材の香りと旨みが凝縮されていて十分おいしいのに驚きました。
 
手作りごま豆腐は求肥のようなもちもちとした食感。上にかかっている練りごまのソースも香ばしいです。他にも蓮根、さつまいも甘煮、万願寺とうがらしの焼き浸し、人参の蒸しケーキ風、しめじと水菜のお浸しなど、野菜の食感と味の違いを味わえる一皿でした。
 
吸物は、松茸やすだちの入った秋らしい一品。
蓋を開けると松茸の華やかな香りとすだちのさわやかな香りが一面に広がります。まさに至福のひととき。
やさしい味わいの出汁の中には、山芋と炒り豆腐の団子が。箸を入れるとほろほろと崩れていきます。
山芋の食感が残りつつも、独特のとろみが溶け出して団子と出汁が一体になっていき、変化が生まれます。食べた後まで香りの余韻が続く一椀でした。
 
続いては里芋の蒸し物。
蓋を開けると、こちらもふわっとゆずの香りが漂います。味覚だけでなく嗅覚でも季節感を楽しめるのが「菜懐石」の特徴。
 
ねっとりとした里芋団子を食べ進めていくと、ぷりぷりの大粒銀杏と優しい甘さのゆり根が入っていて思わず嬉しくなります。器の底には田楽味噌、その上に餡がかかっていて混ぜながらいただくことができます。
驚いたのは柿も一緒に蒸してあったこと。ほんのりとした甘さに、柿ならではの香りが秋らしいアクセントになっています。
 
炊き合わせは季節の野菜を取り合わせて。
京都で見られる大原女(おおはらめ・頭に白い手ぬぐいを被せ、頭上に薪などを乗せて行商していた京都・大原の女性)をイメージして、桂むきの大根が上に被せてあります。なんとも素敵な演出!
 
大根の下には拍子木切りにした人参、小松菜、大根、冬瓜、椎茸が隠れています。
かかっている餡のようなものは、なんと焼きなすのソース。口に入れると焼きなすならではの香ばしい香りがふんわりと広がり、奥行きを感じます。出汁で煮た野菜は、みずみずしさと風味が際立っていました。
塩分は控えめにしているという「菜懐石」。食べ進めるにつれて、だんだんと感覚が研ぎ澄まされているように感じてきます。
 
ご飯は栗ご飯。
秋らしさ満点、ほっこりと甘い栗に色とりどりの漬物が良く合います。パプリカは少量ながら華やかな香りと苦みがアクセントに。佃煮の昆布には出汁を取った後のものを使っています。エリンギの歯ごたえが楽しい一品です。
 
しめには蕎麦が出てきました。
つるつるとした喉ごしのいい蕎麦は、近くの蕎麦店で特別に打ってもらっているものなのだそう。豊かな蕎麦の香りが絶品です。薬味にはおかひじきや柴漬けが乗っていて、食感や色合いも美しい一品でした。
 
最後の水菓子には、ゆずとりんごのコンポートが乗った甘酒のゼリー。
ほんのりと赤い色のコンポートは、ゆずの苦味と酸味がさわやか。甘酒ゼリーはしっかりとした米麹の風味にほどよい甘さと酸味、粒々とした食感も楽しく、今までに食べたことのない味わいでした。
 
食事は以上で終わりです。
この後に抹茶が出てきます。希望者はお茶室に移動してそちらで茶席を楽しむこともできるそう。
 
抹茶のお茶請けに、秋限定の黒豆おはぎが出てきました。
あんこの代わりに炊いた黒豆が入っていて、外側にはきな粉がまぶしてあります。甘さ控えめの大人な味と小ぶりなサイズ感で、何個でも食べられそうなおいしさです。
通常は甘納豆の入ったおはぎを販売していて、そちらもおいしいと名物になっているのだとか。
 
 
 
食後に木村さんにお話を伺いました。
もともと本坊膳所は、30年前まではお遍路さんのための宿坊として使われていた建物。その後、しばらく使われていなかった間に、阪神淡路大震災に遭って大玄関が損傷してしまいました。

その大玄関の修繕が終わったのが20年前のことで、お披露目会でお客様に食事をふるまったのが「菜懐石」の始まりなのだそう。

「一歩足を踏み入れると、静かで落ち着いた異空間なんです。この雰囲気を一般のお客様にも味わっていただきたいと思って」と木村さん。庭を見てみたい、というお客様からの声もあり、食事会の開催に至ったのだと言います。
お寺で供される野菜中心の料理といえば精進料理が思い浮かびますが、木村さん曰く「精進料理は、きちんと修行を積んだ方が作る料理で、例えば出汁のとり方一つにも決まりがあります。私のはもっと普段の料理に近く、主婦らしい目線を取り入れたもの。だから精進料理とは区別して『菜懐石』と名付けました」とのこと。
 
なんでも、お寺ということもあって近所の方から野菜をたくさんいただく機会が多いのだそう。同じ野菜でも切り方や調理の仕方を変えることで、変化をつけて食べる工夫をしてきたのだといいます。料理が好きだったことも高じて、「一般の家庭でも取り入れられるような背伸びしない懐石料理」ができあがりました。
 
「出汁や塩分は極限まで抑えているんです。野菜のおいしさを味わえるのが『菜懐石』の醍醐味」と木村さん。その言葉通り、野菜本来の匂い、食感、味をしっかりと感じられ、満腹感も十分。見た目や香りなど五感全体を使って秋らしさを味わえるお料理でした。
 
 
2020年秋からはオリジナルの持ち帰り弁当を販売しています。
おかずは全部で11品。肉や魚のおかずも入っており、「菜懐石」よりは濃いめの味付けに仕上がっています。
他にも梅酢などのオリジナル調味料や、限定の黒豆おはぎの販売もしています。
販売は食事会開催日のみ。持ち帰り商品は予約をしなくても購入可能です。
 
 
お弁当の横に気になるものが売られていました。白くて丸いこちらは、その名も「厄よけ玉」。
本坊膳所を出て右側の天神宮にある「開運石」に投げつけて割り、厄払いをしてみました。
投げる前に、無病息災などを願って悪い気を吹き込みます。
多くの人が健康を願って投げつけたようです。
並んで奉納された「だるまみくじ」もキュート。しかめっ面もどこかほのぼのとした表情です。
長尾寺は四国八十八ヶ所霊場第87番札所で、第86番札所の志度寺、第88番札所の大窪寺と合わせて「上がり三ヶ寺」と呼ばれています。高僧・行基が開創し、その後弘法大師空海がこの寺を訪れ、唐への渡航が成功するように祈祷をしたと伝えられています。  明治維新以後は学校や警察、郡役所などの公共施設としても使われるなど、地域から信仰を集めてきました。
 
 
また、源義経と恋仲であった静御前(しずかごぜん)が出家した地としても伝えられ、境内には剃髪塚が残されています。静御前の母親・磯禅師(いそのぜんじ)が現在の香川県東かがわ市出身と言われていることから、義経との別れののちに母娘で移り住んだと考えられているようです。
長きに渡り多くの天皇が帰依した寺でしたが、長曾我部元親公が攻め込んだ際の戦乱で本堂以外を焼失。その後、江戸時代に初代高松藩主・松平頼重公が堂塔を整備しました。
本堂の立派な瓦屋根と装飾にも目を奪われます。
山門にある大きなわらじも見どころ。
「上がり三ヶ寺」にはこうした巨大なわらじが奉納されているのだそう。
「菜懐石」は各日とも正午スタート。食事会を楽しみ境内を散策したら14時半頃になります。
少しずつ色づいた庭の樹々を見ながら食事をし、秋の心地よい風に吹かれて境内を歩く時間は何ともゆったりと贅沢。春の「菜懐石」にも、ぜひまた来てみたくなりました。
-----------
長尾寺
住所   香川県さぬき市長尾西653
電話番号 0879-52-2041
https://nagaoji.com/
 
本坊膳所(ほんぼうぜんしょ)
※予約制・食事会開催日は公式サイトを参照
電話番号 0879-52-5251
https://nagaoji.com/本坊膳所/ 

同じテーマの記事