思い出もっと、 とっておき体験 高松市

思い出もっととっておき体験 高松本屋めぐり

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高松市の中心部に伸びる商店街のアーケード。東西南北、すべてのアーケードを合わせると実は日本で一番長いのです。昔ながらの老舗から賑わいある飲食店、話題の新店まで揃うこの商店街付近には、個性的な本屋が点在しています。高松市中心部に来たらぜひ訪ねてみたい、4つのお店をめぐってみました。
まず訪れたのは「なタ書(なたしょ)」。完全予約制の古本屋です。
 
南新町商店街の「フルーツ大林」という果物店の向かいの路地を入ります。一見、お店が見当たらないように思えますが…
少し進むと、「古本」の看板が。
植物が茂っていて、とても入れそうにない入口(2020年8月現在)ですが、ドアが開いていたらオープンしている合図。勇気を出して入ってみます。
薄暗い入口にはたくさんのリーフレットやショップカードと、上に伸びる階段。靴を脱いで上がりましょう。
2階には所狭しと本の並ぶ「なタ書」ワールドが広がっています。
天井や床下まで、至るところに本が。
店主の藤井さんによれば、店内は毎年改装を重ね、徐々に本棚の数も増えているそう。
 
「なタ書」がオープンしたのは2006年のこと。
当時東京などの都心部では、独自の目線で古本をセレクトし、おしゃれに見せるお店が徐々に生まれ始めていました。

ちょうどその頃、故郷・香川県に帰ってきた藤井さんは、本屋を取り巻く状況はこれから大きく変わっていくと考えていたそう。そして、全国的にもまだこのような"新しい"古本屋が少なかった時代に、高松市で「なタ書」を開業しました。
 
「当初は古本屋だけで食べて行くつもりはなかったから」と、完全予約制で営業し、現在でもその営業スタイルを変えていません。ただ、予約してまで行きづらい、というお客さんのためにSNSでお店の開店状況を発信しています。

取材中には、次々と他のお客さんがやってきました。
客層は高校生から年配の方まで幅広く、海外からの観光客の方が多いのも特徴。藤井さん曰く、「なタ書」は「たぶん台湾では、日本の本屋の中でもよく知られた店」なのだそう。
 
飄々とした藤井さんですが、実は店内の本にはすべて目を通しているというから驚きです。
「こんな本ありますか」のリクエストにもすぐに応えてくれます。
また、古本だけでなく、厳選した小出版社の新刊書籍や、個人が自ら制作した自費出版物、瀬戸内の島々に関する書籍などの「他の書店には置いてないが、扱う意味があると思う本」も置いています。
独特の空間だけでなく、店主 藤井さんの人柄も「なタ書」の大きな魅力。
古本屋に来たつもりが、一緒に街歩きをすることになったり、居酒屋で飲み交わすことになったりと、予想できないハプニングに巻き込まれることもしばしば。
高松に来るたびに訪れるというリピーターが多いのも納得。思い出深い時間を過ごせるに違いありません。


次に訪れたのは、新刊書店の「ルヌガンガ」。
南新町商店街と常磐町商店街と田町商店街の交差点になっている、交番のある広場の近くの路地を入ると「ルヌガンガ」があります。「本」という看板が目印です。
落ち着いた雰囲気の明るい店内。奥にはテーブルと、階段状のフロアがあります。
さっそく、店主の中村さんにお話しを伺いました。
まず気になったのは、不思議な店名です。
「ルヌガンガ」とは、スリランカの建築家 ジェフリー・バワが手がけた、同国にある邸宅のこと。50年かけてつくられたというこの理想郷になぞらえて、"時間をかけて少しずつお店をつくっていきたい"という想いが込められているそうです。

お店ができたのは2017年のこと。
香川県にUターンして書店を開くことに決めた中村さん。当時、香川県に都心発の大型書店は増えてきていましたが、個人で営む独自性の高い新刊書店は、まだありませんでした。そんな中、高松の中心部は商店街に比較的活気があることから、書店を開くのにちょうどよいと感じられたのだそう。
「ルヌガンガ」には色々なジャンルの本が少しずつ置いてあります。いわゆるベストセラー、といった本はあまりなく、中村さんが「いい本だ」と感じられるものを置いているのだそう。曰く、「いい本」とは「読者を信頼し、誠実につくられた本」のこと。その言葉通り、気になる本が次々と見つかって、時間を忘れて過ごしてしまいます。
ZINE(ジン・マガジンから派生した言葉で、個人や団体が自ら制作する小冊子のこと)も、大型書店では手に入らないもの。中村さんに聞くと、おすすめのZINEも教えてもらえます。
店内ではコーヒーなどのドリンクも販売しており、店内でお茶をしながら購入した本をゆっくりと読むこともできます。ドリンクはテイクアウトも可能です。
また、本の著者などによるトークイベントや、子ども向け読み聞かせイベントなども随時開催。イベント時には、店内奥の階段状のフロアが客席の役割を果たします。
さらに「ルヌガンガ」では、店頭にない本の注文も可能です。取材中も、常連さんらしきお客さんと言葉を交わしていた中村さん。気になることがあれば、「わざわざ路地にあるこのお店に来てくれるということは、何かしらコミュニケーションを求めているかな、と思って」と、にこやかに対応してくれます。
「興味のなかったジャンルの本にも出会えることが、書店の醍醐味」という中村さん。ゆくゆくは「あまり本を読まない人でも、興味を持って来てくれるような間口の広いお店にしたい」とのこと。
今では少なくなってしまった昔ながらの書店のように気軽に訪れ、本に向き合えるお店です。


続いて向かったのは、「ルヌガンガ」のすぐ近くにある古本屋「古本YOMS(ヨムス・以下YOMS)」。
重厚感あるドアと、店先まで並べられた古本にワクワクしてきます。
店内に入ると、天井近くまで届く本棚に本がびっしり。
店主の齋藤さんは、ご夫婦で古本屋をやりたいと各地を訪ねていたのだそう。2013年の瀬戸内国際芸術祭で高松を訪れた際に、その街並みのコンパクトさと気候風土に惹かれ、高松で開業することにしたそうです。
2017年、現在のお店の向かい側のビルの4階にオープンし、その後2019年に現在の場所へと移転しました。

もともとは美容院だったという「YOMS」の店内。大きな本棚は齋藤さんがご自身で設えたものだそう。
本のジャンルは、文学、哲学・思想、芸術など幅広く取り扱っています。
本棚はところどころが小さなテーブルのようになっており、気になる本をゆっくりと読むことができます。コーヒーなどのドリンクもあり、テイクアウトも可能です。
テーブルの上の小さな作品は奥様の手によるもの。また、齋藤さんの手による作品や詩集、友人・知人らのアート作品や陶芸作品、ZINEも並んでいます。
移転して路面店になったことで、近所の年配の方が増えた、という齋藤さん。「お店に来たお客さんが商店街の歴史なんかを話してくれて。それを僕が他のお客さんにまた話したり。そうして、街の歴史や厚みを感じてもらえるといいな、と思っています」。香川県にゆかりのある作家やジャーナリストの著作や、郷土誌などを集めたコーナーもあります。
齋藤さんは、年月を経た古本からも、街や人の歴史を感じられるといいます。「古本には、持ち込んできてくださった方の趣味や人となりが反映されています。そういったストーリーも含め、古本ならではの魅力を感じてもらえれば」と話してくださいました。
「YOMS」では、毎奇数月に「ペーパートーク」というイベントも開催。各々がZINEを持ち寄り交換し合うという会です。「長く続けていって、おもしろいムードができていったらいいな」と齋藤さん。

ぎっしりと詰まった本棚を一つひとつ眺めながら、ゆっくりと過ごしたい古書店です。


最後に向かったのは、「珈琲と本と音楽 半空(なかぞら・以下半空)~coffee&bar~」。
「ルヌガンガ」や「YOMS」から歩くこと約6分、南新町商店街の北端の路地を東に入ったところにあります。

一見すると見落としてしまいそうな、幅の狭い階段が目印。
階段を上がり大きな扉を開けた先には、ふっと心落ち着く大人の空間が広がっています。白シャツに黒ベストというダンディーな出で立ちで出迎えてくれた店主の岡田さんは、店主というより「マスター」と呼びたくなってしまう佇まいです。
「半空」は、保多織(ぼたおり)という香川県の伝統工芸品のネルで入れる店主こだわりのドリップコーヒーや、カクテルなどのアルコールが飲めるカフェ&バー。トーストやフルーツサンドなどの軽食もあります。
そして、店名にあるように本と音楽も楽しめるのが「半空」の特徴。
バーカウンターの上や、背面の本棚に並んだ本は、どれでも自由に手に取って読むことができます。
店内にかかるのは岡田さんが収集した数々のレコード。しっとりとした心地よい時間が流れます。
「半空」がオープンしたのは2001年のこと。
若いときからジャズ喫茶や珈琲専門店、バーなどに通っていたという岡田さん。
通ううちに、お店のマスターやお客さんなどと言葉を交わすようになり、次第に交流が増えていったのだそう。
そうした経験から、「家族でも同僚でも学友でもなく、昔からの友達でもない人との交流や、自分の肩書を下ろして、何者でもない者になれる居場所が人には必要なんじゃないか」と思い、お店を始めることを決意しました。お店のコンセプトは「自分が好きなもの」。岡田さん好みの、甘さを感じられるネルドリップのコーヒーや、本、音楽などを選んだのだといいます。
店主の岡田さんは、2015年から「半空文学賞」という取り組みを行っています。

自身も書くことが好きという岡田さん。
「人に見せたり聞かせたりする予定がなくても、誰もがその人だけのストーリーを持っているのではないでしょうか」と語ります。そうした埋もれているストーリーに光を当て、「他の誰かが感動したり面白がったり、書き手の人間性を感じたりすることに意味がある」と感じているそう。
そして、書き手と読み手の接点を作り、多くの人が文学に親しみ楽しんでもらいたい、という想いからこの文学賞を設置しました。

受賞した作品は小さな冊子にまとめられ、香川県内各所や、賛同する全国の書店に無料で配布されているそう。
第5回となる2020年度の「半空文学賞」は、丸亀市の賛同のもと「丸亀城」をテーマにした作品が集められました。受賞作品をまとめた冊子には、2018年の西日本豪雨で崩落した丸亀城の石垣復旧への寄付用紙も添付され、復旧をサポートすることもできる仕組みです。


「半空」では、ヘミングウェイや村上春樹など、小説家が愛飲したカクテルを再現したというユニークなメニューもあり、本好きにはたまりません。次回はぜひ試してみたいと思います。

友人や恋人と来て過ごすもよし、一人で静かなひとときを過ごすもよし。
深夜3:00まで営業しており、高松本屋めぐりの〆にぴったりのお店です。

それぞれに店主の想いが反映されている今回の4つの本屋。
旅行ではついつい予定を詰め込んでしまいがちですが、唯一無二の個性的な空間で、じっくりと読書時間に浸る一日もいいものだと思いました。

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なタ書
住所   香川県高松市瓦町2-9-7
電話番号 070-5013-7020(藤井)
Twitter @KikinoNatasyo
Facebook https://www.facebook.com/natasyo
※完全予約制。お店へのお問い合わせや開店状況はSNSをご確認ください
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ルヌガンガ
営業時間 10:00-19:00
定休日  火曜日
住所   香川県高松市亀井町11番地の13 中村第二ビル1階
電話番号 087-837-4646
https://www.lunuganga-books.com/
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古本YOMS
営業時間 12:00-21:00
定休日  火曜日
住所   香川県高松市田町1-7
電話番号 090-1850-9482
http://yoms-furuhon.sakura.ne.jp/
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珈琲と本と音楽 半空 ~coffee&bar~
営業時間 13:00~翌3:00
定休日  日曜日
住所   香川県高松市瓦町1丁目10-18 北原ビル2F
電話番号 087-861-3070
http://nakazora.jp/

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