芸術祭だけじゃない!香川のアート

芸術祭だけじゃない!香川のアート

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NAGERE STUDIO「流政之美術館」
香川県高松市にアトリエ兼住居を構えた世界的な彫刻家・流政之(ながれ まさゆき)。2019年9月、そのアトリエ兼住居跡がNAGARE STUDIO「流政之美術館」としてオープンしました。亡くなって約1年後のことです。

高松市庵治半島の瀬戸内海を望む広大な敷地に、レンガ造りの3階建て建物。まるで城のようでもあり砦のようでもあり…それ自体が作品と呼べるほどの異次元の世界を訪ねてみました。

近づいてみると、さらにびっくり。見上げるほど高いレンガの壁に阻まれ、中が全く見えません。とても静かな場所にあり、要塞のようにも見えます。

(NAGARE STUDIO 蔵)

ここに一人で暮らしていたという流政之とは、一体どんな人物だったのでしょうか。
1923年に生まれ、刀鍛冶、装丁家、零戦パイロットなど数々の経歴を持ち、彫刻だけにとどまらず、作庭や陶芸、家具デザインなど、多彩な造形においても独自の技法やスタイルを確立した作家。日本経済新聞に寄稿した『私の履歴書』には、かなり放浪癖というか、旅好きというか、フーテンだったというエピソードが書かれています。
高松市庵治町にスタジオをつくり始めたのは1966年、「うまいおかずといい女」(『私の履歴書』より)に巡り合わんと旅の途中で出会った地・高松市庵治町が、偶然にも石の産地でした。香川県内で集めた焼きそこないのレンガを使い、風合いを生かしながら若い石工たちと少しずつ改築と増築を繰り返した、という建物は今なお工事中。設計も自ら手がけたそうです。

建物の周りには、作品がたくさん並んでいます。彫刻家としての流はかなり多作で、その数は世界中に数えきれないほどあり、NAGARE STUDIOには、そのうち約400点が展示されています。

流のことをよく知るスタッフが館内を案内してくれます。その一人、太田さんは流が主宰した「石匠塾」のメンバーで、ともに1964年ニューヨーク世界博日本館の大壁画「ストーンクレージー」の制作を手がけました。「先生の作品は四方正面、つまりどこから見ても正面。どうぞ手で触れてみてください」と太田さん。手をのばしてみると、艶やかでひんやり。そして一部ざらざらとした触感が感じられます。

これが流作品の特徴の一つ「割れ肌」。敢えて石の表情をそのまま残して仕上げているそうです。刃物で切ったような鋭さの中にやわらかな曲線を含み、さらに鉱物としての石本来の魅力を作品の中にバランスよく構成し、その一つひとつが違っていて美しいのです。素材も黒御影、大理石、庵治石のほか石や木、鉄など様々なものを使い、旺盛な制作意欲を感じます。

建物の内部は通路部分のみ公開していますが、そこは香川県、いや日本とは思えないほどユニーク。レンガの壁に丸や四角のガラス窓を配し、古い神社のような木の装飾も不思議と調和しています。どこに何を合わせるか、すべて流の「感覚」だそうです。
住居部分として使っていたのは建物の3階部分。レンガの最上段に石を積み直線的な仕上げになっていますが、実は雨水がレンガにしみ込まないための工夫。幾重にも階層が連なり、少しずつ増築していった名残がよくわかります。
流はアンティークや骨董が大好きだったそうで、館内の至るところに収集品がさりげなく飾られています。レトロなポストや人形、お面、椅子などが、まるでずっと前からそこあったかのように置かれています。

中庭をぬけると一気に視界が広がります。瀬戸内海を望む芝生広場には、さらにたくさんの作品が設置され、気持ちよさそうに陽光を浴びています。「先生は作品をつくる時、周りにとけこんでいるかを大切にしていました。人が集まって町おこしに繋がるようなものを作りたい、作品に鳥が糞をしてもいいんだ、とよくおっしゃってました」と太田さん。

こちらは、流の代表作「サキモリ」シリーズ。サキモリとは「防人」、つまり古来より命を捨てて国を守った無名の戦士たちのこと。「胸に四角い風穴あき、内臓なく、風通し良く、ひとのいのちをうけついで瀬戸内海の岬に立ち、雲に身をまかす」(『私の履歴書』より)。守っているようにも、開いているようにも見えるし、空しくも爽快にも見える…。じっと見ていると「どんなふうに感じてくださってもいいんですよ」と太田さん。ここは誰もが「自由」であることを、守ってくれている城なのかもしれません。

庭の中にちょっと不思議な空間がありました。レンガで丸く囲まれた空間の中にたたずむのは…
海の中に沈んでいた零戦のプロペラだそうです。こちらも四方正面で、どこから見てもいいのですが、何だか人が立っているようにも見えます。背景の色(取材時は黄色)はその時々で変えていたそうで、紫だったこともあるとか。

NAGARE STUDIOからは人家はほぼ見えず、見渡す限りの空と海。喧噪を忘れ、自由に心を遊ばせるにはぴったりの場所です。自然との一体感を感じながら、作品と向き合う贅沢なひとときを過ごすことができました。

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NAGARE STUDIO「流政之美術館」
開館日  木・金・土
営業時間 10:30-/13:00-(要予約・各回ともスタッフによる定員ツアー制)
※展示替え・年末年始ほか臨時で閉館する場合があります。公式サイトをご確認ください。
住所   高松市庵治町3183-1
電話番号 087-871-3011

入館料  5,000円(一般)・2,000円(大学生以下、学生証提示)・メンバーシップ及び同伴者)
所要時間 約60分

 
 

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