香川旅帖 特別編 善通寺市

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毎年2月に開催されている「さぬき映画祭」。その裏側に密着したドキュメンタリー『映画祭のつくり方』の監督として、瀬戸内海の風景等を描いた『SETOUCHI THE MOVIE』を手掛けられています。また、瀬戸内国際芸術祭のメイキングカメラマンなどとして、香川をたびたび訪れている映像ディレクター・尾野慎太郎さんに、お話を聞きました。
2013年にドキュメンタリー撮影のために、はじめて香川にやって来ました。2017年には撮影を通して、八十八ヶ所の霊場をめぐる「お遍路」を経験されました。
その旅の途中で、お遍路に縁のある弘法大師・空海の足跡や、今に息づく人々の助け合いの精神に、感動したといいます。

「助け合いの文化」が、DNAレベルで刻まれている

―尾野さんは東京のご出身ということですが、2013年からドキュメンタリーの撮影で、たびたび香川に来られています。最初はどんなきっかけで?

大学の卒業制作として作った映像を、香川出身の映画監督・本広克行さんに観ていただける機会があったんです。その作品を評価していただけて、本広さんがディレクターをされていた「さぬき映画祭」のドキュメンタリーを撮らないか? というお話をいただいたんです。
自分はまだ大学を出たばかり。あれよあれよと話が決まって香川にやって来たわけですが、当時の持ち物は本広さんからいただいた寝袋1つだけでした(笑)。初めて訪れたときの冬の高松の情景が、今でもくっきり記憶に残っています。
 
―なかなかドラマチックな経験をされていますね(笑)。
 
当時、映画祭関係者の方をご紹介いただいて、その方のお家にある離れを借りて住んでいました。畳2畳分くらいのスペースで、ガスが通っていなくて、時期は2月。寝袋しか持っていなかったので、寒さもしのげず困っていたら、地元の方々が炊飯器やらストーブやらを持ち寄ってくださって(笑)。「よかったら食べて」といって、野菜やお米を届けてくれた方もいました。
皆さんにお世話していただいたおかげで、東京の自分の家より生活が豊かになっていくという経験をして。今でも本当に感謝しています。
お遍路さんにも「接待」という文化があると思うのですが、 「困っている人を見たら放っておけない」「お世話しなきゃ」っていう助け合いの精神が、DNAレベルで息づいているんじゃないかなと感じました。
 

お遍路さんの道のりをたどって感じた、人々の信仰心

―2017年には「SETOUCHI THE MOVIE」の撮影で、お遍路さんの道のりをたどられたんですよね。
 
はい、一番札所の霊山寺(りょうぜんじ)から。八十八ヶ所の四国霊場をすべて、1ヶ月くらいかけてでしたね。道のりをずっと記録しました。
 
―車とはいえ、1ヶ月で巡るのはかなり過酷そうですが。
 
そうですね、休みなく四国中を移動しました。撮影で巡っているので、天気の良い日に活動し、雨の日は動けなかったです。でも、あんな機会でもないとお遍路を巡る機会がなかったでしょうから、貴重な経験をさせていただいたと思っています。
「こんなところを通っていくの⁉︎」というような山奥のお遍路道も、自分の足で歩いてみました。僕らは仕事で行きましたけど、信仰心を持って歩いている人が多く、お遍路さんの姿はとても印象的でしたね。
あるお寺では、お婆さんが白装束を着て、念仏を唱えながら滝行をしている様子を見させていただいたのですが、 “スゴみ”がありました。「信仰心ってこういうものなのか!」って。
 
―お遍路の旅路で、特に印象に残っている場所はどちらですか?
 
まず思い浮かぶのが善通寺です。弘法大師・空海が生まれた場所といわれていますよね。お遍路さんを知る過程で古事記について調べたのですが、書物のなかには、空海が残した偉業がいくつも登場します。調べれば調べるほど空海の足跡が現代に残されていることを知って、とても感心しました。他にはない歴史的な文化ですよね。
―讃岐うどんの原点も、一説によると空海が持ち込んだものからといわれています。
 
それも、お遍路を通して知りました。空海の影響力が今に残っている一例ですよね。
まんのう町にある日本一大きなため池「満濃池」もそうですし。いまだに地元の人はその池の水を使っているのですから、驚くばかりです。池のほとりにある空海の銅像も、しっかり目にしました。
善通寺が思い出深い場所であるのも、空海の仕事と人々の信仰心を肌で感じたあとだったから、というのが大きいですね。暗闇のなかを歩く「戒壇めぐり」も体験しました。真っ暗ななかを壁伝いに歩いていく修行です。

伊吹島の海の男たちに圧倒されました

―話は変わりまして、尾野さんは瀬戸内国際芸術祭のメイキングカメラマンや、瀬戸内海の風景をとらえたドキュメンタリー作品を手がけられています。瀬戸内の島々も、あちこち行かれたんでしょうか?
 
3年くらい、香川はもちろん岡山も広島も、あちこちいろんなところに行かせて頂きました。「瀬戸芸」はやっぱり記憶に残っていて、島々を船で移動してアートを観るというのは、特別な体験でした。特に瀬戸芸で回る島はそう何時間も船に乗るわけじゃないから、気軽。島一つひとつは決して大きくないのに、そこにしかない独特の文化にも触れられますし。「瀬戸芸」はまた行きたいなあ。
 
―2022年にまた開催されますから、ぜひ。そのほかに思い出深い島といえば?
 
伊吹いりこで有名な伊吹島にも撮影で行かせていただきました。いりこ漁に参加させていただいて、地網で魚をバーっと引き上げるシーンは、圧倒されました。漁のあとで、茹でたてのいりこもいただいたのですが、とても美味しかった記憶があります。
漁の朝、船がブワーッと一斉に沖合いに出ていく風景にも圧倒されました。
 
―伊吹島を舞台に尾野さんが作品を作ったら、面白いものができそうですね。
 
いいですね(笑)。個人で海上タクシーをされている方がいらっしゃるんです。その方、緊急事態があれば荒波のなかでも出港するそうで。島の女性が産気づいた時も、病院に連れていくために真夜中に船を出したこともあったとか。
僕が島に行った日も大しけで、天井に頭ボコボコぶつけながら、なんとか伊吹島まで送り届けてもらいました(笑)。その日は、島のガイドもしてくださり、伊吹島のディープな文化を沢山ご紹介くださいました。外国に行ったくらいのカルチャーショックを受けましたね。
とても思い出深い滞在となりました。密着してドキュメンタリーを撮ってみたいです!
 

瀬戸大橋を渡る車窓から、島々が見える高揚感を味わって

―尾野さんって本当に、香川の人より香川に詳しいですよね(笑)。
 
一番通っていた時は、1年の3分の1くらいは瀬戸内のどこかで撮影をしていました。
香川のお正月の様子を撮ろうとなって、急に知り合いの方に「どこか撮影できる場所はありませんか?」とお願いしたこともありました。香川の人にとっては当たり前かもしれませんが、年越しにそばじゃなく、うどんを食べると聞いて、「これは絶対に収めなきゃ!」って思いましたね。
 
―確かに、香川の名物=うどんということは有名でも、「うどん屋がコンビニより多い」といわれるほど生活に密着しているのは、県外の方には驚きかもしれません。
 
朝うどんの文化も、僕ら外の人間にはインパクトがありますよ。田村神社(高松市一宮町)では、日曜日だけうどんを食べることができるのですが、あれも新鮮でしたね。神社の脇にお店があって、おばちゃんたちがふるまってくれる素朴なうどん。美味しかったです。
 
―香川に「戻って来た」と思えるのはどんな瞬間ですか?
 
月並みかもしれませんが、電車で瀬戸大橋を渡っているときですかね。
撮影で、瀬戸大橋の橋脚の上まで行ったことがあるんです。タイムラプスでコマ送り撮影をしたのですが、直接橋の上にいると、電車の中よりいっそうダイナミックさを感じられて。だから、瀬戸大橋にも思い入れがあるんです。
岡山で新幹線から在来線に乗り換えて、ガタンガタンと小刻みに揺れながら、車窓から島々が見えてくるあの感じ。あのなんともいえない高揚感、外から香川にやって来られる方にもぜひ味わっていただきたいです。
【取材後記】
映像ディレクターということもあり、ロケーションで瀬戸内の良さを見ているのかと思いきや、尾野さんが大事にしていたのは「人」であり、土地に息づく「文化」でした。
弘法大師・空海が未来に残した文化、そして人々の温かさ。あなたも香川を訪れたら、歴史の息づかいを感じながら、自分だけのストーリーを作ってくださいね。お時間がある方は、お遍路めぐりもどうぞ!
 
 
【プロフィール】
尾野 慎太郎(おの しんたろう)
映像ディレクター。2013年から2020年まで8年間、「さぬき映画祭」に密着し、2016年にはその裏側を追ったドキュメンタリー「映画祭のつくり方2016」を監督。2013年の瀬戸内国際芸術祭ではオフィシャルメイキングカメラマンとして参加したほか、2018年には瀬戸内をテーマのドキュメンタリー「SETOUCHI THE MOVIE」を制作した。ドキュメンタリーのほか、舞台映像やアニメーションの演出も手がけている。

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