香川旅帖 特別編

讃岐うどんには、ただの食事じゃ味わえない「イベント」のような楽しさがありますね

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数々のTVドラマ・映画・舞台に出演する、升毅(ます たけし)さん。映画監督の本広克行氏が香川県を舞台に制作した一連の作品『サマータイムマシン・ブルース』『UDON』『曲がれ!スプーン』の通称「さぬき三部作」では、ユニークな役で全作品に出演されています。
撮影で香川県を訪れて以来、すっかり讃岐うどんに魅了され続けているという升さんの、香川県でのエピソードやうどんの楽しみ方をお聞きしました。

本広克行監督と一緒に訪れたお店が、讃岐うどんの原体験

― 升さんといえば、讃岐うどんをテーマにした映画『UDON』では作品のキーマンの1人として出演する一方、『サマータイムマシン・ブルース』では劇中のポスターや、お遍路さんなどさまざまな場面で登場。「そんなところにいたの?」という風変わりな役を務められていますよね。

最初はポスターのカットだけの役だったんですけど、農家さんやお遍路さんといったエキストラ的な役が空いていて、本広監督が言うんですよ。「だったらこれ全部、升さんで」って。隙間隙間で出られるところは全部出ましょう、というノリになってね。あれは、本広監督の完全な遊びです(笑)。

―はい、「さぬき三部作」には、升さんを探す楽しさがあります(笑)。讃岐うどんとの出会いも、本広監督とのご縁がきっかけだったとか?
 
『サマータイムマシン・ブルース』を撮影する前にね、「香川のうどんはうまいぞ」と監督に誘われて、ある年、一緒に香川までうどんを食べに来たんです。早朝から1日で5〜6軒くらい回ったかなあ。
うどん屋さんの名前は思い出せないんですけど、最初に連れて行ってもらったお店のインパクトが、ずっと強烈に残っているんですよ。お店の外観はいわゆる昔ながらの雑貨屋さんでガラガラ〜って戸を開けて入ると、なんと奥でうどんを食べさせてくれるんです。
あのとき食べた素朴なうどんの味は、今でも忘れられないですね。それからですよ、「こんな世界があったのか!」と、僕が讃岐うどんに夢中になったのは。





 

讃岐うどんが好きなのは、「イベント」的な楽しさがあるから

― 升さんは思春期を大阪で過ごされているということで、もともとうどんという食べ物には馴染みがあったのでしょうか?
 
いや、僕は生まれが東京なので、実はそば文化の人間だったんですよ。うどんを食べることは当時あまりなかったんですけど、讃岐うどんとの出会いで、ガラッと変わりました。
讃岐うどんって、お店のロケーションも楽しみの1つだし、うどんのタイプも様々でしょう? おでんを好きに取ったり。セルフっていう独特のスタイルもいい。僕が讃岐うどんを好きなのは、ただの食事では味わえない、「イベント」的な楽しさがあるからなんですよね。


 
 
― やはり「さぬき三部作」撮影の時は、たくさんうどんを食べられたのしょうか?
 
ええ、うどんを食べてばかりでした(笑)。僕は当時、香川での滞在期間がとても短くてね。撮影場所とホテルの往復ばかりだったから、うどんだけがとても楽しみだったんです。共演していたムロツヨシくんたちは、宇多津あたりで毎晩のように飲みに行ってたようだけど。そんな中でもうどん屋さんで親しくなったのが、「うぶしな」さんですね。
 
―宇夫階神社(うぶしなじんじゃ)の境内にある、地元でも有名なお店ですね。
 
当時、何度か通っているうちに、店主さんと仲良くなったんですよ。肉ごぼううどんが美味しくてね。「うぶしな」さんは、僕のなかでは5本の指に入るほど大好きなお店です。
他には割とメジャーどころが多いかもしれませんが、「日の出製麺所」さん、「宮武うどん」さん、「白川(しらかわ)うどん」さん、「山越(やまごえ)うどん」さん、「上戸(じょうと)」さん…あれ? 「うぶしな」さんを入れたら5本超えちゃった(笑)。
あとお店の名前を思い出せないけど、ずっと行きたいと思っているお店もありますし。知らないお店も開拓したいんだけど、ついつい思い入れのあるところに行っちゃうなあ(笑)。

さぬき映画祭では「うどんバスツアー」のゲストに

―その後に参加された2014年の「さぬき映画祭」では、映画祭に来られた一般の皆さんと香川県内のうどん屋さんをめぐる「うどんバスツアー」のゲストをされましたね。

僕はツアーの添乗員なのに、当日どこのお店に連れて行かれるか分からないんですよ(笑)。ツアーのバスは1号車と2号車があったんですが、2台が入れ替わるタイミングで、僕は同じ店に2回行くということもありました。とても変わった思い出だけど、懐かしいですね。

 ―うどんバスツアーでは、『サマータイムマシン・ブルース』の舞台になった善通寺も、訪れていますよね。

撮影から十数年ぶりだったのかな。やっぱり懐かしさを感じましたよ。高松とはまた違った、古き良き歴史を感じる街並みですしね。
『サマータイムマシン・ブルース』で僕はお遍路さんの役を演じたんですけど、当時たまたまうちの娘と姪っ子が香川に遊びに来ていてね。本広監督に、「この子たち出してよ」って頼んだら、2人を出してくれたんです。お遍路さんのシーンの奥の方に、よく見ると女の子が並んで立っているんですが、それ、娘と姪っ子なんです。

「池上製麺所」の、るみばあちゃんと会って感激してしまいました!

―プライベートでは、香川に来られる機会はありますか?

ええ、もちろん来たことありますよ。いつだったかな、高松に来たときにうどん屋さんがたくさん出店しているイベントをやっていたんですが、そこに「池上製麺所」のるみばあちゃんがいらっしゃって。最初はプライベートだから帽子を目深に被って歩いていたんですけど、るみばあちゃんを見たとたんに「あ、るみばあちゃんだ!」って声を上げて感激してしまいました(笑)。
一緒に写真を撮っていただきましたね。
香川には結構な回数来ているんですけど、仕事がメインだから、滞在日数が少ないんですよね。本当はうどん以外にもいろいろ楽しみたいんですけど。小豆島も行ってみたいですし。

まずは「かけ小」。1日に何軒も回れるなら、いろんな食べ方をしたい!

― 讃岐うどんとひと口にいっても、いろんな食べ方がありますが、升さんが好きな食べ方はなんでしょうか?
 
うーん、とても難しい! 1日に何軒も回れる時間があったら、僕の場合、最初に行くお店でまずは「かけ小」を頼みます。出汁を味わいたいんですよね。それから別のお店に行って、ざるうどんや釜揚げうどんも食べて、いろんなうどんの食べ方をコンプリートします。

 ― 升さんのうどんの楽しみ方は「一期一会の出会いを味わう」ような感じですね。
 
そうかもしれないですね。「麺は固くなければいけない」みたいなこだわりってないんですよ。うどん屋さんとの出会いそのものに価値を感じるんですね。だから、うどんの味はもちろんですが、「輪ゴムで留められたネギを渡されて、自分でハサミを使って切り入れる」みたいな、そのお店独特の仕組みも楽しめる方です。
 
 ― 今でこそ讃岐うどんの食べ方などは多くの人に知られるようになりましたが、以前は「その独特の仕組みやルールが難しい」という観光客もいらっしゃいました。
 
最初は戸惑うかもしれませんが、それさえも面白さと思えるようになれば、うどん屋さんをめぐることがどんどん楽しくなると思いますね。
さらにお店に通い慣れてくると「これはご自由にこうして取ってください」みたいな、お店がお客さんに委ねる親切さが心地よくなってくる。
まさに、「うどん(かけ小)から生まれる最高の出会い」ですよ。
【取材後記】
『さぬき三部作』の1作目『サマータイムマシン・ブルース』の公開が2005年。当時の撮影で知ったうどん屋さんの名前を、15年以上経った今でも覚えている升さんに、うどんへの強い思い入れを感じました。
あなたにとっての“きっかけ”となるうどん屋さんも、香川を訪れたら、きっと出会えることでしょう。
 
 【プロフィール】
升 毅(ます たけし)
1955年 東京都生まれ。
近畿大学卒業後、劇団「売名行為」を経て、1991年、演出家のG2らと共に劇団「MOTHER」を旗揚げ。2002年の解散まで、座長であり看板俳優として人気を博す。映画やTVドラマにおいて、独特な存在感と硬軟自在に演じ分ける演技力で幅広く活躍。NHK朝の連続テレビ小説『あさが来た』でヒロインの父親を演じ話題に。本広監督初作品は『7月7日、晴れ』から『UDON』を含む話題作に参加。近年の主な出演作は、主演映画『八重子のハミング』、『ビューティフルドリーマー』、『大綱引きの恋』。TVドラマ『素敵な選TAXI』、『高嶺の花』、『おじさまと猫』、『イチケイのカラス』、『イタイケに恋して』等。

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