香川旅帖 特別編

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東京から飛行機で約1時間と少し。
空の旅というものは、いつだって小さな高揚感で心が躍ってしまう。機内でいただくお茶にホッと緩んだ口元を、もういい大人なのでそれをグッと抑え込む。
高松空港に降り立つ。
香川の魅力を様々な角度から存分に味わうため、まず手始めに腹を満たそう。
そう、なんてったって、うどんだ。
お店のBGMがキョンキョンだったら最高だ。
もちもち、ツヤツヤの喉越し、シンプルでさっぱりとした出汁、サイドメニュー豊富な天ぷら、おにぎりたち。ここにきたら三食うどん、ドンと来い。
そして、満腹で幸せのお腹とカメラを抱えて、栗林公園(りつりんこうえん)を訪れた。
初めて公園の名前を見た時に、どうしても「クリリン」とつい読んでしまって、国の特別名勝指定の庭園を目の前にしても、某有名アニメのタイトルがよぎってしまう、という年齢がバレそうな疑問で頭がいっぱいになったことをここでお詫びしたい。
 
そして園内にある掬月亭(きくげつてい)へ。目的は和菓子…ではなく、ここからの眺めがまた最高なのだ。
壁や障子も少なく、南湖はキラキラと太陽の光を反射しているのが見える。
光の中を覗き込むと、カラフルで大きな鯉たちが優雅に泳いでいる。

学生の頃は茶道裏千家を3年間習っていたからか、
畳があるお茶席の場では背筋をしゃんとして、静かに正座をしてお抹茶を待つ。
しかし、頭の中はどうにも騒がしい。
水面をたどって遠くの景色にふと目をやると「栗林だから、栗の木はないかな…」と
あたりを探しても、どうやら園庭にあるのは松の木のようだし、
出された和菓子も「栗林だから、やはり栗のお菓子かな…」と思っていたが、
フォルムは似て非なるキレイな練り切りだ。
ついには、公園の名前の由来がいよいよ気になってしょうがなくなってきたが、美しい場所で美味しいものを食べているうちに、いつの間にか問いも満たされてしまった。
 それにしても、なんて心地のいい場所なのだろう。
16世紀末から庭造りの歴史が刻まれ、今もなお現代の人々の胸をときめかせている。
北湖にかかる紅い橋は、緑豊かな背景と真っ青な大空の中でひときわ印象に残った。
ロマンとマロンを感じていると、気付けば日暮れの時間がやってきた。
移動日はあっという間に時間が経ってしまうし、旅の夕暮れはなんだか少し切なく寂しい気持ちにいつもなってしまう。
楽しく愉快な時間とは、どうしてこんなにも早く過ぎ去ってしまうのだろうか。
ここからはしっとり、ゆっくりと色の記憶を辿っていこう。
夕暮れでオススメのスポット、高松シンボルタワーへ向かう。
展望台の高い場所から海を眺めていると、
少しずつ空と海の境界線がわからなくなってきた。

溶け合う空と海の狭間で、きっと何度も何度も時空を越えて見てきたであろうグラデーションがかった幾重にも重なる色と、色。
昼間はあんなに躍って騒がしかった心が静まり返り、
黙々と写真に収めてはまた地平線を見つめる時間が、あっという間に押し流されていく。
シャッター音と鼓動だけが鳴り響き、気付けばあたりは深紅から菫色へ。
やがて漆黒の大きな闇に覆われていった。
旅はいつも以上に、出会う景色や出来事たちに意味や想いをのせてしまう。
でも今は静寂な時に、ただただ身を委ねるのがいい。



 
そして、空と海が魅力的な場所である父母ヶ浜(ちちぶがはま)の光景も忘れられない。
ここはウユニ湖のように鏡に反射したような不思議な写真が撮れると聞いていたが、
わたしが行った日は風も強く、水面が揺れて断念。
でも、美しくチカラ強い夕焼けは、今でも心の奥底にキラキラとカケラが舞っている。

近くでは仲の良さそうなカップル達が楽しげに写真を撮っている。
ウラメシヤ…じゃなかった、羨ましい。
カップル達を横目に1日を振り返ると、香川にはたくさんの色があった。
どれも鮮やかで、記憶にもくっきり焼きつくよう。
次の旅ではどんな新しい色に出会えるのだろうか。
そして、今晩のうどんのトッピングは何にしようかとウキウキしながら宿へ向かった。
【プロフィール】
寺島 由里佳(てらしま ゆりか)
ポートレイトを中心に、広告雑誌媒体などで活動中。ライフワークに動物園にいる動物たちを撮り続け、いずれは全国世界の動物園を巡るのが夢。 
自身初の写真集「きょうも、どうぶつえん」を発刊。母校の立教大学での講師や、その他企業や行政とのイベント企画に参加。写真に関するワークショップ、トークショー、コンテストの審査員などの活動を行う。
 
【補足 栗林公園の名前の由来】(栗林公園公式サイトより)
「栗林」の名前は栗の木から?
不思議な名前の由来
1640年頃には「栗林」の名がすでに使われており、それから現在まで「栗林」の名が引き継がれてきました。「栗林(りつりん)」とありますが、庭園は造られた当初から松で構成されています。栗の木が群生していたとか、種類に限らず木が生い茂った里山のことを中国では「栗林」と呼ぶなど、名前の由来には諸説あるようです。

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