古訪ねる歴史旅 多度津町

多度津の繁栄を今に伝える合田邸

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香川県の中讃にある多度津町は、かつては北前船の寄港地や金刀比羅宮への海の玄関口として栄えた町。今も当時の繁栄を思わせる重厚な瓦屋根の家々が立ち並んでいます。そんな多度津の町中で、ひときわ大きな家が「合田邸」。「多度津七福神」と呼ばれた裕福な商家のうちの一つで、現存する唯一の邸宅です。今回、邸宅内を見学してみることにしました。
多度津の古い町並みが最もよく残っているのは、JR多度津駅から西に10分程度行ったところにある南北の通り、「本通り」。黒いなまこ壁や瓦屋根の家が並んでいます。
通りの周辺には銭湯を改装した喫茶店や古民家を改装した惣菜店、路地を入ったところには海上交通や金毘羅参詣道の守護として祀られたと言われている白鬚(しらひげ)神社もあり散策にぴったり。
本通りを南下していくと「合田邸」が見えてきます。
石造りの壁とステンドグラスのある洋風の館が目印です。
合田邸の見学は要予約で、予約すれば「合田邸ファンクラブ」の方が内部を案内してくださいます。
 
まずは「多度津七福神」のことを聞いてみました。
「多度津七福神」とは、江戸時代後期の終わりごろから廻船業で隆盛した、多度津町を代表する7つの商家の家長またはその家のことを指す言葉。
 
各家は米や砂糖、肥料、米穀、石炭や木材などの燃料、煙草の交易で財を築き、その後は四国で初めての鉄道事業や、電力事業、銀行などを展開しました。各家の家長は多度津の町議会や国会議員としても活躍し、名実ともに地域の実力者として四国の近代化の礎を築いてきました。
 
「多度津七福神」の7つの邸宅のうち、現在も唯一残っているのがこの合田邸なのです。

約700坪という広大な敷地に母屋や洋館、離れなど18棟もの建物を持つ合田邸。
「七福神」として資産を築いた2代目・房太郎氏のときに建設が始められ、3代目・健吉氏のときに洋館や書斎などが建てられ、1928年には現在の姿になりました。
合田邸は、洋館の地階や土蔵などが鉄筋コンクリート造で、これは県内のコンクリート造住宅では最初期のものなのだそう。
 
 
まず案内していただいたのは、暖炉のある応接間。
外から見た石造りの館の内部にあたる部分で、邸宅内では比較的新しい部屋だそう。
 
廊下を渡り、次に向かったのが書斎。
健吉氏は貴族院(現在の参議院)議員としても活躍しました。この書斎は、その健吉氏が使っていた部屋です。アールデコ調のインテリアでまとめられた、明るくてモダンな雰囲気が特徴です。

机の上の写真は、エジプトのピラミッド前で撮られたものだというから驚き。書斎の横には大きな書庫もあり、まだまだ多くの蔵書があるそうです。
 
続いて向かったのは大広間「楽々荘」。
30畳もある広大な部屋で、廊下も含めるとなんと50畳になるそう。日本家屋とは思えないほど天井が高いのも特徴的です。
 
「楽々荘」と名付けたのは歌人・北原白秋氏。広々としたこの空間に寝そべるのが好きだった、というエピソードがあるそうです。合田邸には、香川県出身の首相・大平正芳氏や歌人・吉井勇氏など政治家や文化人が数多く集いました。
この広間で注目したいのは長押(なげし)という、部屋の上部に横に渡された柱のような部材。
実は、一本のヒノキから作り出された非常に貴重なものなのです。
 
これほどの長さのヒノキは四国ではまず見つからないため、おそらく東北から持ってこられたと考えられているそうです。廻船業で栄えていたからこそ、調達することのできた部材です。
ほかにも、座卓や天井の桟は漆塗りで仕上げられていたり、襖に描かれた雲の模様は角度によって違った色に見えたりと、部屋の細部まで趣向が凝らされています。
 
 
他にも、お手洗いの手前にある手水鉢(ちょうずばち)も印象的でした。
変わった形のこの鉢は、中央が噴水になっており、その水が足下の空間に徐々に溜まっていく仕掛けなのだそう。お手洗いに至る廊下はちょっとした橋のようになっていて、まるで小さな池を渡っていくような造りになっています。
続いて向かったのは全面がガラス張りになった瀟洒(しょうしゃ)な館。
美しい外観に、内部は金銀の襖で彩られていたことから1階は「銀の間」、2階は「金の間」または「エジプトの間」と呼ばれていたそうです。館の中央には畳の間があり、板の間の廊下がその周囲をぐるりと取り囲んでいます。
廊下の手摺は木材を組みあげて作られており、幾何学的な模様が表現されています。
窓も、透明なガラスと模様入りのガラスを組み合わせた特注品。
天井も様々な種類の木材を組み合わせ、木目と色合いでパターンを表現したもの。高い美意識を感じられる意匠です。
続いて離れを出て、食堂の方へ。
中庭を通り抜ける途中、洋館(2020年9月現在、非公開)に至るアプローチ部分に思わず目を奪われました。色鮮やかなタイルが配置されていて、昭和初期の建物とは思えないほどモダンです。
また、洋館の地階には寝室があり、当時にしては珍しく家人はベッドで休んでいたそうです。
食堂は洋風の造り。普段の食事もイスとテーブルだったそうで、合田家の先進的な暮らしぶりが伺えます。敷地内にはボイラー室があり、なんと給湯の設備も整っていたというから驚きます。
台所と食堂を隔てる窓に施されたステンドグラスも、様々な色と種類のガラスを組み合わせた大変美しいもので、思わず見とれてしまうほど。
食堂にはもう一つ、驚きの仕掛けが。
大きなテーブルの縁を持ち上げると…
なんと、下に漆塗りのテーブルが隠れているのです!
 
実は、家人が通常食事をするときは板でできたカバーのようなものを被せて使用していたのだそう。
客人などが食事をする際には被せていたカバーを外し、より格調高い食卓でおもてなししていたのだそうです。
 
最後に紹介していただいたのは、大きな石をくり抜いたこちらの手水鉢。
ここに置かれている柄杓(ひしゃく)の柄が、非常に長いのです。片手でこの柄杓を持ってみると、もう片方の手に水を掛けるのは一苦労。
それもそのはず、実はこの柄杓は自分で使うものではないのです。使用人がここで待機しておいて、この長い柄杓を使って、お手洗いから出てきた客人や家人の手をすすぐのだそう。
 
さらに、手水鉢の足下には水琴窟(地中に設けた甕に水滴を落下させ、その音を反響させる仕掛け)が設けられていて、手をすすぐたびに美しい音を奏でます。

合田邸の敷地内には他にも土蔵やレンガ造りの倉庫、茶室、離れなどがあります(いずれも2020年9月現在、非公開)。邸宅内は建具や照明器具、壁面の装飾など、細かい部分まで見逃がせません。
歴史好きや建築好きならば、一度と言わず何度でも通いたくなるほど、見どころの多い邸宅でした。
 
多度津の町中には、他にも武家屋敷を改装した複合施設や、古民家を改装したゲストハウスなどが点在しています。昔にタイムスリップしたような気分で一日滞在することができました。


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合田邸
※見学は要事前予約
住所   香川県仲多度郡多度津町本通1-5-2
電話番号 090-7785-7573(合田邸ファンクラブ:泉川)
http://www.tadotsu-kanko.jp/sightseeing/entry-317.html
 

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