芸術祭だけじゃない!香川のアート 丸亀市

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館

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香川県の中央、中讃(ちゅうさん)エリアにある丸亀市に「MIMOCA(ミモカ)」の愛称で親しまれている美術館があります。香川県にゆかりのある芸術家・猪熊弦一郎氏(以下猪熊氏)の作品を所蔵・展示しており、現代美術の企画展も開催されています。長寿命化のための改修工事を終え、2020年6月にリオープンしたと聞き、行ってみることにしました。
「丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(MIMOCA:Marugame Genichiro-Inokuma Museum of Contemporary Art)」は、JR丸亀駅のすぐ向かいにあります。多くの人に気軽に美術に触れてほしい、という猪熊氏の想いから、「MIMOCA」は人の行き交う駅前に建てられることになりました。立体作品が配置されたスペースと、大きくそれを囲うファサード、馬の壁画が目を引きます。
まず気になったのは、この建物のこと。
「MIMOCA」を設計したのは、日本を代表する建築家の一人・谷口吉生(たにぐちよしお)氏。父の谷口吉郎氏と猪熊氏が知り合いで、息子である吉生氏を子どもの頃からよく知っていた猪熊氏が、信頼のできる吉生氏に設計を依頼したのだそう。
館内に入ると、自然光を取り入れた明るい吹き抜けのエントランスホールが目に入ります。
 
 
ゆったりとしたチェアの横に、取材時には猪熊氏の作品が掛かっていました。チェアのそばには、猪熊氏と丸亀市とのつながりを感じさせるモニュメントが。
香川県高松市に生まれ、幼少期は県内を転々としていた猪熊氏ですが、ある時住んでいた丸亀市の土器川(どきがわ)で溺れかかっていたところを地元の方に救ってもらいました。これは、その時助けてくれた方に捧げたモニュメントだそう。
猪熊弦一郎《GETA》1991年


 
「MIMOCA」は丸亀市が猪熊氏に依頼して設立された現代美術館で、その構想やコンセプト、設計や展示方法、インテリアやサインなどの細部に至るまで、すべてに猪熊氏が関わったのが大きな特徴です。というのも、存命中の芸術家の名前を冠した美術館がつくられるというのは、全国的に見ても珍しいこと(「MIMOCA」オープンは1991年、猪熊氏は1993年没)。猪熊氏は、美術館設立というプロジェクトを光栄に感じ、情熱を注いだのだそうです。設立にあたっては2万点近くあるという作品やコレクション、資料などが猪熊氏から寄贈されました。
 
そんな猪熊氏が「MIMOCA」設立にあたって大切にしていたのが、「美術館は心の病院」ということば。いつでも、誰でも気軽に美術館に来て、疲れたりつらいことがあったりしても、ふっと元気を取り戻すような場所になってほしい…–。そんな願いが込められているそうです。
 
 
 
その願いを体現するように、「MIMOCA」の展示空間には順路やパーティションがありません。鑑賞者が作品に近接するのを防ぐような仕切りもなく、額に入った絵やキャンバスそのものを間近に観ることができるのです。
 
また、子どもに美術に触れてほしいとの思いから、高校生以下または18歳未満なら無料で鑑賞できるのも特徴。子どもたち向けに、様々なワークショップも開催されています。
 
館内の図書室やカフェ、ミュージアムホール前のラウンジスペースなどは鑑賞者以外も自由に利用することができます。
 
(1枚目写真:美術図書室)(2枚目写真:猪熊弦一郎《明るい集落》1986年)
 
 
さらに、今回の改修工事ではカフェの改装や各所のメンテナンスのほか、アクセシビリティにも配慮がなされました。階段のみだった部分にスロープを設置したり、多目的トイレや授乳室の設置など、“誰もが立ち寄れる美術館”という猪熊氏のコンセプトを体現するものとなりました。
 
 
 
それでは展示室に向かいます。
エントランスホールの階段を上がると、展示室Aにたどりつきます。この展示室 Aと隣の展示室Bは、猪熊氏の作品やコレクションを展示する常設展示室。
「MIMOCA」では、その時々でテーマを決めて、常設展も年に4回ほど展示替えされています。2万点ほどあるという所蔵作品・コレクションなどの中から、色々な作品が展示されるのだそう。
 
幼い頃から絵が得意だったという猪熊氏。
2020年8月現在は、リオープンに合わせ、猪熊氏の画業を振り返るような内容になっています(2020年9月22日まで)。 ここでは、一部作品を写真にてご紹介します。
 
 
猪熊氏は東京美術学校(現東京藝術大学)に入学、その後、当時芸術家たちの憧れであったパリに渡り、ピカソやマティスなどに刺激を受け、人物など具象的なモチーフを中心に描いていました。
猪熊弦一郎《二人》1936年
 
やがて第二次世界大戦が始まると、藤田嗣治夫妻とともにドルドーニュ州へ疎開します。
戦火の拡大にしたがって帰国要請が発令されましたが、猪熊氏はぎりぎりまでパリに滞在していたのだそう。
 
帰国したのちは、中国文化視察として従軍し、戦時下にありながら生き生きとした情景を描き出しました。
猪熊弦一郎《長江埠の子供達》1941年
 
戦後、1955年からはニューヨークに渡ります。
ニューヨークの現代アートに強く刺激を受けた猪熊氏は、具象的モチーフから抽象的モチーフへと対象を変え、その作品は新しい文化の波を取り入れたものとなっていきました。
20年間ニューヨークに滞在した猪熊氏でしたが、体調を崩し帰国。1975年から、気候の寒い時期にはハワイで制作をしていたそう。
猪熊弦一郎《角と丸 BX》1977年
 
ハワイの気候風土を思わせる、土着的で明るい色彩の作品です。
 
最晩年には、具象も抽象も超えた猪熊氏独自のスタイルが確立されてきました。
縦が約4mもある巨大なこの作品は、実は2つのキャンバスから成るもの。
猪熊弦一郎《宇宙都市休日》1991年
 
もともとあった下半分に、「MIMOCA」に展示するために美術館のスケールに合う作品を、と10年後に上半分を描き足した作品なのです。明るく高い天井のある「MIMOCA」に、まさにふさわしい作品です。
 
 
3階にある企画展示室では、現代アートの展示が開催されます。これは、「MIMOCA」設立にあたって猪熊氏が掲げた必須の条件でもありました。現代美術とは時代を見据えどう生きるかを考えさせるものだ、と考えていた猪熊氏は、現代美術を紹介するという役割を重要視していたといいます。「MIMOCA」がオープンした1991年当時、現代アートだけを展示する美術館は非常に珍しく、冒険的な試みだったそう。
 
続いて鑑賞したのは、企画展「猪熊弦一郎展 アートはバイタミン」(2020年9月22日まで)。
このタイトルも、実は「美術館が心の病院なら、アートはバイタミン(ビタミン)のようなものだ」と語った猪熊氏のことばから引用したものなのだそう。
 
猪熊氏自身が集めた自宅インテリアなどのコレクションに加え、企業の依頼で制作した作品、個人宅に置かれた作品、パブリックアートなどを紹介しています。
写真の2枚目は、百貨店三越のオリジナル包装紙で知られる「華ひらく」。
香川県庁東館のロビーにある壁画「和敬清寂」も猪熊氏の作品。今回展示室には原寸大の模型が展示されています。香川県を旅するなら、「MIMOCA」と合わせて香川県庁東館もぜひ鑑賞してみたいものです。
 
一通り案内していただいたあとは併設の「Café MIMOCA」で一休みすることに。屋外彫刻作品の配置された広場「カスケードプラザ」に面した、心落ち着く空間です。
 
スタッフの方によれば、今回の改装を機に店内の内装を開館当初のオリジナルに戻したのだそう。床のタイルは貼り直され、傷んでいた椅子の革もすべて張り直し、新品同様に。壁の作品は展覧会ごとに掛け替えられます。
 
現在「Café MIMOCA」を手がけるのは、高松市丸亀町にある「まちのシューレ963」。週末(金・土・日)にいただけるランチは、当初からある「MIMOCA」オリジナルのテーブルウェアに合わせ、「まちのシューレ963」のメニューからアレンジされているそう。
 
 
この日は、ブルーベリーのクランブルケーキをいただきました。ブルーベリーの酸味が夏にうれしいスイーツです。
 
店内には香川県や四国の雑貨も置いてあります。カフェだけでなく、雑貨のみの購入も可能。
また、ドリンクは店外のテーブルでもいただくこともできます。
 
カフェで一休みした後は、階段を下りて再び1階へ。
 
美術館の楽しみといえば、ミュージアムショップ。
猪熊氏の作品をあしらった様々なグッズがあります。
「MIMOCA」の設計を手がけた谷口吉生氏が、同様に設計を手がけたニューヨークの現代美術館、「MoMA(The Museum of Moderan Art)」のグッズも販売されています。
 
気に入った作品を何度も見たり、展示室を自由に行き来したりと、心の赴くままに鑑賞したあとは、カフェでのんびり。美しい作品と空間に癒され、まさに「美術館は心の病院」のことばを体感するようなひとときを過ごすことができました。
 
 
作品クレジット;©︎公益財団法人 ミモカ美術振興財団
 
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丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 MIMOCA
営業時間 10:00-18:00(入館は17:30まで)
休館日  月曜日(祝日の場合はその直後の平日)、12月25日から31日、および臨時休館日
住所   香川県丸亀市浜町80-1
電話番号 0877-24-7755
観覧料  企画展:展覧会による
     常設展:一般 300円、大学生 200円、高校生以下または18歳未満無料https://www.mimoca.org
※展覧会の間に展示替えによる休館期間があります。詳しくは公式サイトをご覧ください
 

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